2018年01月19日
ぼくの資産をミュチュア
村へ帰りついたのは、十時十五分過ぎだった。ロサンジェルス行きのヘリコプター・バスが、二十五分以内に出発する。ぼくは村で一軒の中古自動車展示即売場を見つけて、史上またとない超スピードの取引をし、自動車を時価の半分以下で現金に換えた。それでも、ピートをバスにひそかに連れこむぎりぎりの時間しか残らなかった。そして十一時過ぎた直後には、ぼくらはミュチュアル生命保険のミスタ・ポウエルのオフィスに到着していた。
ミスタ・ポウエルは、ぼくが、ぼくの資産をミュチュアル生命に信託する取り決めをキャンセルすると聞いていたくご機嫌を損じ、特にぼくが書類を紛失したというと、ぼくに一場の訓戒を垂れようとした。「いくらなんでも、おなじ判事に、二十四時間以内に二回もおなじ人の許可を申請するなどということはできませんね。規則に違背するにもほどがあります」
ぼくは金を掴み出してポウエルの鼻先でふりまわした。「そんな意地悪をするのは考えものじゃないか、軍曹。きみはぼくをお客にしたいのか、それともしたくないのか。したくないならはっきりそういってくれ。ぼくは直ちにここを退出してセントラル・ヴァレイに行くから。いずれにしろぼくは今日|冷凍睡眠《コールドスリープ》に出かけるんだ」
彼はなおも文句をいいかけたが、ついに折れた。それから、睡眠期間を半年加算したいとぼくがいったのに、また文句をつけた。そして、蘇生の正確な日程を決めたいというと、それも保証できないという。「契約書は原則として、管理技術上の許容誤差プラスマイナス一ヵ月を加えることになっています」
「ぼくの場合は原則もくそもない。ぼくの場合は、正確に、二〇〇一年四月二十七日が蘇生日程だ。もちろん、ミュチュアル生命でそれができないというんなら、セントラル・ヴァレイへ行くよ。ねえミスタ・ポウエル、ぼくは客だよ。きみは売り方だ。きみがぼくのいうとおりで売れないんなら、ぼくはぼくの注文どおりで売ってくれるところへ行くまでだ」
ポウエルは契約を変更した。ぼくらはその部分にサインした。
十二時ジャスト、ぼくは最終検査のために例の身体検査官のもとへ出頭した。彼はぼくを見ていった。
「素面だろうね」
「判事そこのけにね」
「どうだかな。テストしてみよう」彼は“昨日”同様に厳重な検査をしたが、やり終わってゴム棒を置いた彼は目をまるくしてぼくを見た。「これは驚いた。あんたは昨日よりずっと健康状態がよくなっている。驚くべきものだ」
「健康状態だけじゃないんですよ、先生、ほんとうはね」
ぼくはピートを抱いて、鎮痛剤の注射を受けるあいだ彼をおさえていた。それからぼくは横になり、医者の手に身体をまかせた。もう一日やそこらは待ってもよかったのだが、ぼくは待てなかった。ぼくは、狂おしいまでに二〇〇一年へ戻ることを望んでいた。
午後四時前後――動かないピートの頭を胸に抱いて、ぼくは嬉々として再び三十年の眠りについた。
ミスタ・ポウエルは、ぼくが、ぼくの資産をミュチュアル生命に信託する取り決めをキャンセルすると聞いていたくご機嫌を損じ、特にぼくが書類を紛失したというと、ぼくに一場の訓戒を垂れようとした。「いくらなんでも、おなじ判事に、二十四時間以内に二回もおなじ人の許可を申請するなどということはできませんね。規則に違背するにもほどがあります」
ぼくは金を掴み出してポウエルの鼻先でふりまわした。「そんな意地悪をするのは考えものじゃないか、軍曹。きみはぼくをお客にしたいのか、それともしたくないのか。したくないならはっきりそういってくれ。ぼくは直ちにここを退出してセントラル・ヴァレイに行くから。いずれにしろぼくは今日|冷凍睡眠《コールドスリープ》に出かけるんだ」
彼はなおも文句をいいかけたが、ついに折れた。それから、睡眠期間を半年加算したいとぼくがいったのに、また文句をつけた。そして、蘇生の正確な日程を決めたいというと、それも保証できないという。「契約書は原則として、管理技術上の許容誤差プラスマイナス一ヵ月を加えることになっています」
「ぼくの場合は原則もくそもない。ぼくの場合は、正確に、二〇〇一年四月二十七日が蘇生日程だ。もちろん、ミュチュアル生命でそれができないというんなら、セントラル・ヴァレイへ行くよ。ねえミスタ・ポウエル、ぼくは客だよ。きみは売り方だ。きみがぼくのいうとおりで売れないんなら、ぼくはぼくの注文どおりで売ってくれるところへ行くまでだ」
ポウエルは契約を変更した。ぼくらはその部分にサインした。
十二時ジャスト、ぼくは最終検査のために例の身体検査官のもとへ出頭した。彼はぼくを見ていった。
「素面だろうね」
「判事そこのけにね」
「どうだかな。テストしてみよう」彼は“昨日”同様に厳重な検査をしたが、やり終わってゴム棒を置いた彼は目をまるくしてぼくを見た。「これは驚いた。あんたは昨日よりずっと健康状態がよくなっている。驚くべきものだ」
「健康状態だけじゃないんですよ、先生、ほんとうはね」
ぼくはピートを抱いて、鎮痛剤の注射を受けるあいだ彼をおさえていた。それからぼくは横になり、医者の手に身体をまかせた。もう一日やそこらは待ってもよかったのだが、ぼくは待てなかった。ぼくは、狂おしいまでに二〇〇一年へ戻ることを望んでいた。
午後四時前後――動かないピートの頭を胸に抱いて、ぼくは嬉々として再び三十年の眠りについた。
Posted by 爱哭的女孩 at 13:06│Comments(0)